平成21〜22年度 |
研究課題名 A03-K5 | 海洋表層マッピングによる親潮域の鉄供給過程の評価 |
研究代表者 | 西岡 純 | 北海道大学 低温科学研 |
研究分担者 | 小埜 恒夫 | (独)水産総合研究センター 北海道区水産研究所 |
| 的場 澄人 | 北海道大学 低温科学研究所 |
研究概要 |
西部北太平洋亜寒帯域では、陸起源大気ダストの海洋表層への沈着や,大陸棚堆積物の3次元的な海洋内部の循環によって,海洋生物生産に必要不可欠な鉄分が供給されていると考えられる。
しかし,これらの供給過程がそれぞれどのような役割を果たしているのかについては,定性的にも定量的にも未解明な部分が多い。
本研究では、大気から海洋表層への鉄供給過程を定性・定量的に評価するために,海洋循環で決まる鉄濃度のバックグランド変動の詳細を把握し,大気からのシグナルを抽出することを目指す。
その上で,各鉄の供給過程それぞれの海洋生物生産への役割を定性・定量的に評価する。
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研究課題名 A03-K6 | 海洋における生物起源気体の変換に関わる細菌機能群の動態解析 |
研究代表者 | 浜崎 恒二 | 東京大学 海洋研究所 |
研究概要 |
本研究では、生物起源気体の一種であるジメチルサルファイド(DMS)及びその前駆物質であるジメチルスルフォプロピオネイト(DMSP)の海水中での変換、分解に関わる海洋細菌群集の主要代謝遺伝子について、その時空間的な分布と発現量の変動パターンを明らかにすることを目的とする。
DMSPからDMSへの微生物学的な変換過程を詳細に解析することによって、細菌による代謝活動が、どのような環境下においてDMSの生成につながるのか、あるいは消失につながるのかを明らかにしようとするものである。
申請者の研究グループが過去数年間にわたって収集した全球スケール(本邦沿岸域、南北トランセクトを含む太平洋全域、南極海、地中海)の環境DNA試料を対象とした機能遺伝子解析によって、細菌群集の活動によってDMSPがDMSに変換されるのか?あるいは食べられてなくなってしまうのか?そこに海域や深度による違いはあるのか? DMS生成の変動に関わる普遍的な機構や変動要因を見出すことが期待される。
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研究課題名 A03-K7 | 貧栄養海域の生物生産における島効果の再評価 |
研究代表者 | 古谷 研 | 東京大学 農学生命 |
研究概要 |
本研究は、低生物量・低生産力で特徴づけられる熱帯・亜熱帯貧栄養海域において、生物生産の高いホットスポットを島周りに作る、いわゆる「島効果」の再評価を目指す。
島効果は、地形性の水柱擾乱や湧昇による下層からの栄養塩供給によって生物生産が高まる現象であり、高濃度栄養塩の利用能が高い珪藻類などの卓越をもたらす。
近年、亜熱帯海域の島周辺で窒素固定能をもつシアノバクテリアTrichodesmiumがブルームを形成することがわかってきた。
鉛直的な擾乱を生み出す島効果と、Trichodesmiumが好む強い成層環境は相反しており、そのブルーム形成は下層からの硝酸塩供給と両立しない。
このパラドックス解明のために、本申請は以下の仮説を提示する。
1) 下層から供給される栄養塩のN:P 比 (15:1)と生物利用のN:P 比(16:1)が異なるためリ
ン酸塩が余る傾向がある、
2)このため、擾乱や湧昇は非定常現象なので、発生後の時間経過次第で、窒素律速が生じて窒素固定者が有利になる、
3) そこにダスト供給で鉄環境が好適化すると窒素固定者がブルームを形成する、
4)擾乱や湧昇と、その後の緩和・成層化のタイミングによって、珪藻類あるいは窒素固定者にとって有利な環境になるかが決まる。
本研究は、この仮説を検証し、次いで下層からの栄養塩供給による新生産と窒素固定による新生産を評価し、ダスト供給を組み込んだ新たな島効果パラダイムの構築を目的とする。
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研究課題名 A03-K8 | 西部北太平洋における懸濁粒子の凝集・沈降特性の変動機構 |
研究代表者 | 福田 秀樹 | 東京大学 大気海洋研究所 |
研究概要 |
本研究は海洋における物質循環を駆動する「生物ポンプ」の中心部分となる有機物の凝集・沈降速度を予見する数理モデルに不可欠なパラメーターである、粒子の表面の粘着性および粒子の固体部分の比重の変動を支配する要因の解明を通じて地球環境の変化に対するこれらの応答を予見するモデルの構築を目的としている。
本研究は以下の3つのプロセスで遂行することを計画している。
1)海洋表層の物理的な混合状態を再現した新しい培養手法を確立、
2)1)で確立した手法を用いて、沈降粒子の固体部分の比重および粘着性の変動幅に関
する野外観測、
3)これらの変動を制御する要因の検討パラメーター化し、大気組成動態・気体交換変動・海洋生態系動態の統合モデルの高精度化に寄与する。
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平成19〜20年度 |
研究課題名 A03-K1 | 生態系の長期変動は西部北太平洋亜寒帯域の生物ポンプ機能を変化させたか |
研究代表者 | 千葉 早苗 | 独立行政法人海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター |
研究分担者 | 本多 牧生 | 独立行政法人海洋研究開発機構 むつ研究所 |
| 笹井 義一 | 独立行政法人海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター |
| 笹岡 晃征 | 独立行政法人海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター |
研究協力者 | 松本 和彦 | 独立行政法人海洋研究開発機構 むつ研究所 |
| 喜多村 稔 | 独立行政法人海洋研究開発機構 極限生物圏研究センター |
研究概要 |
近年IGBP主導のプログラム等により、歴史的観測データに基づく長期変動解析が国際的に実施された結果、世界の海域で様々な気候フォーシングに対する生態系の応答が報告されてきた。
研究代表者らは,最近50年間の気候の寒暖サイクルに伴い西部北太平洋の生態系構造や、生産時季のずれといった生物季節的変化がおこるメカニズムを明らかにしてきた。
西部北太平洋亜寒帯域は生物活動による亜表層への粒子の輸送効率が極めて高い海域であり地球温暖化予測という命題を鑑みれば,長期変動研究の次の課題は検出された表層の生態系変化が海域の物質循環に与える影響を正しく評価することにある。
長期に渡り高頻度で同時に観測された生物・化学データはほとんどないが、季節的、経年的な表層の生態系構造の変化と物質循環の関係はモデルや高頻度時系列観測、衛星観測、短期集中現場観測等で近年に得られたデータから検証可能である。
よって本研究の目的は 1)生物ポンプ機能変化のプロキシとなり得る経年的な表層の生態系構造変化や生物季節的変化を特定し,2)多角的観測手法に基づくプロセス研究及びモデルシミュレーションの結果と長期変動研究で得た知見とを組み合わせることにより、気候変動に応じた海域の生物ポンプ機能変化を見積もるための手法を確立することである。
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研究課題名 A03-K2 | 西部北太平洋亜寒帯域(親潮域)表層の鉄濃度の変動と大気ダスト供給量との関係 |
研究代表者 | 西岡 純 | 北海道大学 低温科学研究所 |
研究分担者 | 小埜 恒夫 | 独立行政法人水産総合研究センター 北海道区水産研究所 |
| 的場 澄人 | 北海道大学 低温科学研究所 |
研究概要 |
本研究の目的は、大気ダスト経由の鉄供給が亜寒帯域表層の鉄濃度の変動にどのように寄与しているかを定量的に評価することである。
研究期間内に次のI)〜III)の項目について研究を行う。
- 親潮海域の定線観測(Aライン観測)において、表層鉄濃度の季節的変動を含めた時系列観測を継続して行う。
- 実海域の海洋表層付近の大気ダスト中に含まれる鉄量の季節的な変化を観測するとともに、海水中で大気ダストから鉄がどの程度溶出してくるかを、室内実験および船上実験において検討する。
- II のデータおよび、季節毎の親潮海域へのダストの沈着量を衛星データや数値モデルの情報より抽出し、Iで得られる表層鉄濃度の季節的な変動とともに解析することで、大気ダスト経由の鉄供給が亜寒帯域表層の鉄濃度の変動にどのように寄与しているかを定量的に評価する。
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研究課題名 A03-K3 | 窒素固定生物群集の多様性が海洋表層の物質循環に及ぼす影響 |
研究代表者 | 古谷 研 | 東京大学 農学生命科学研究科 |
研究分担者 | 岩滝 光儀 | 長崎大学 環東シナ海海洋環境資源研究センター |
研究概要 |
本研究は、これまで大型群体を形成するシアノバクテリアTrichodesmiumを中心に展開してきた海洋の窒素固定研究に対して、近年、その重要性が急速に明らかになってきた大きさ数ミクロン程度の単細胞性窒素固定者の評価を核に、窒素固定者の多様性が、大気からの鉄フラックスに応答した窒素固定の時空間変動に大きな影響を及ぼすとの仮説を検証するものである。
そのために海洋の窒素固定生物の組成とその時空間変動、基礎生産および窒素固定活性の地理分布を西部太平洋をフィールドとして把握し、実験室における単細胞性窒素固定者およびTrichodesmium培養細胞を使った解析から鉄やリン供給依存性を、大型窒素固定者と単細胞性窒素固定者の対比から解明する。
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研究課題名 A03-K4 | 海洋表層における光従属栄養プロセスの解析 |
研究代表者 | 浜崎 恒二 | 東京大学 大気海洋研究所 |
研究分担者 | 大河内 直彦 | (独)海洋研究開発機構 地球内部変動研究センター |
研究概要 |
本研究では、本邦周辺海域及び南北太平洋における好気性光合成細菌の分布、多様性、現存量を明らかにすると共に、炭酸固定への寄与、光による増殖促進の程度を明らかにすることを目的とする。
先行研究によって整備されてきた新しい微生物ダイナミクス解析手法や、世界最高レベルの高感度光合成色素同位体分析手法を駆使して、従来法では解析が困難であった光従属栄養による炭酸固定や増殖促進の解明に取り組む。
光従属栄養は、有機物の生成に加えて、分解や同化の過程にも光条件が影響することを示唆しているが、全体の生態系システムの中でこれをどの程度考慮すべきか定かではない。
本研究の成果はこれに明確な回答を与えるものと期待される。
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